離れて暮らす親御さんのための収納・物の出し入れ安全対策:高所・低所リスク、改修事例と費用目安
はじめに:日常生活に潜む収納・物の出し入れのリスク
離れて暮らす親御さんの住まいを考える際、階段や浴室、玄関といった特定の場所のリスクに目が向きがちです。しかし、日々の生活の中で頻繁に行われる「物の出し入れ」や「収納」にも、高齢者にとって無視できない安全リスクが潜んでいます。加齢に伴う身体機能の変化、例えばバランス感覚の低下、筋力の衰え、視力の変化などは、高い場所や低い場所にある物に手を伸ばしたり、重い物を持ったりする際に、転倒や物の落下といった事故につながる可能性があります。
本記事では、親御さんの住まいにおける収納・物の出し入れに伴うリスクを具体的に解説し、それに対する実践的な安全対策、具体的な改修事例と費用目安、そしてすぐに確認できるチェックポイントをご紹介します。
高齢者の収納・物の出し入れに伴う具体的なリスク
高齢者が収納や物の出し入れを行う際に考えられる主なリスクは以下の通りです。
- 転倒・バランス喪失:
- 高い場所の物を取ろうとして踏み台から落ちる
- しゃがんだり、膝立ちになったりして、立ち上がる際にバランスを崩す
- 収納場所まで移動する際に、床に置かれた物につまずく
- 重い物を運んでいる最中にふらつく
- 落下・衝突:
- 高い場所から物を落とし、本人や周囲の人に当たる
- 開き戸の収納の扉に頭や体をぶつける
- 引き出しや扉が開いたままになっていることに気づかず、衝突する
- 労力・負担:
- 重い物を持ち上げたり下ろしたりする際に、腰や関節を痛める
- 使いにくい収納によって、無駄な動作が増え疲労が蓄積する
これらのリスクは、特にキッチン、リビング、寝室、玄関の収納など、日常的に物の出し入れが多い場所で発生しやすいと言えます。
場所別の収納・物の出し入れ安全対策
キッチン
食品や調理器具、食器など、様々な物が収納されています。
- リスク: 高い吊り戸棚の物、シンク下など低い場所の物、重い鍋や調味料。
- 対策:
- 使用頻度の高い物は、かがんだり背伸びしたりせずに出し入れできる、腰から目の高さの範囲に収納場所を移動する。
- 引き出し式の収納に変更する。奥の物も簡単に取り出せます。
- 軽い踏み台を常備する(ただし、安定性の高いものを選ぶ必要があります)。
- 重い物は、下段や取り出しやすい場所に収納する。
- 吊り戸棚には、昇降式の棚を設置することも検討する。
- 収納内部の照明を改善し、どこに何があるか見やすくする。
リビング・寝室
衣類、書籍、小物などが収納されています。
- リスク: クローゼットの高い場所、タンスの引き出し、ベッド下の収納。
- 対策:
- 衣類は、吊るす収納を増やしたり、キャスター付きの収納ケースを活用したりする。
- 引き出しには、開け閉めしやすい取っ手を付ける。
- ベッド下収納は、引き出し式やキャスター付きのものにするか、使用頻度の低い物の収納に限定する。
- 照明を十分に確保し、収納内部や周囲の視認性を高める。
- 扉の開閉時に体の位置に注意を促すような工夫(分かりやすい取っ手や、床の色とのコントラストなど)も有効です。
玄関収納(下駄箱など)
靴や傘、外出時に使う小物などが収納されています。
- リスク: 高い段の靴、傘立ての不安定さ、棚に置かれた小物。
- 対策:
- よく履く靴は、かがまずに出し入れできる中段に収納する。
- 低い段に収納する場合は、掴まりやすい手すりなどを近くに設置することを検討する。
- 傘立ては、安定感のあるものを選ぶか、壁に固定するタイプを検討する。
- 靴べらや鍵などの小物は、かがまずに取れる場所に置く定位置を決める。
具体的な改修事例と費用目安
収納に関する安全対策リフォームは、大掛かりなものから比較的手軽なものまで様々な方法があります。
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使用頻度の高い場所への棚・収納新設/移動:
- 事例: キッチンに腰高の引き出し収納を増設、リビングに壁面収納の一部を使用しやすい高さに変更。
- 費用目安: 数万円~数十万円(収納ユニットのグレードや工事範囲による)
- 概要: 既存の収納が使いにくい場合に、高齢者の身体に合わせた高さや形式の収納を設置します。物の定位置を「安全な高さ」に定めることで、危険な動作を減らします。
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既存収納の引き出し式化またはアクセスの改善:
- 事例: キッチンの開き戸収納をスライド式引き出しに変更、クローゼットの奥まで物が取り出しやすいようにコの字型の棚を設置。
- 費用目安: 数万円~20万円程度/箇所(引き出しユニットの種類や工法による)
- 概要: 奥の物を取り出すために無理な姿勢になるリスクを軽減します。既存の収納内部に後付けできる引き出しユニットや、キャスター付きの収納グッズを活用する方法もあります。
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照明の改善:
- 事例: 収納内部や収納場所周辺にLED照明を設置、センサー付き照明の導入。
- 費用目安: 数千円~数万円/箇所(設置方法や照明の種類による)
- 概要: 薄暗い場所での物の出し入れは危険を伴います。収納内部や足元を明るくすることで、視認性を高め、物の位置確認や足元の安全確保につながります。
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手すりの設置:
- 事例: キッチンやリビングの収納場所の近くに、バランスを崩した際に掴まれる手すりを設置。
- 費用目安: 数万円~10万円程度/箇所(手すりの種類や設置場所、壁の補強の要否による)
- 概要: 特に、しゃがむ、立ち上がる、あるいは重い物を持つといった動作に伴う転倒リスクが高い場所に効果的です。
これらの改修には、DIYで可能な範囲(例: 突っ張り棚の設置、キャスター付き収納ケースの利用、市販の収納内部用照明の設置)と、専門業者に依頼すべき範囲(例: 壁に固定する手すり、造り付けの収納、間取り変更を伴う大掛かりな改修)があります。安全に関わる部分は、専門知識と技術を持つ業者に依頼することをお勧めします。
安全確認のポイント:収納・物の出し入れのチェックリストに類する視点
離れて暮らす親御さんの住まいを訪問した際や、今後の改修計画を立てる際に確認しておきたい安全確認のポイントをリスト形式にまとめました。
- 場所別チェック:
- キッチン: 吊り戸棚の物は無理なく届くか?シンク下の物はかがまずに取り出せるか?重い物はどこに置かれているか?
- リビング・寝室: クローゼットの上段・下段の物は無理なく出し入れできるか?引き出しの開け閉めはスムーズか?
- 玄関: よく履く靴は取りやすい高さにあるか?傘立ては安定しているか?
- その他の収納: 納戸や物置など、 infrequentに使う場所でも、物の重さや安定性は適切か?
- 動作別チェック:
- 高い場所の物を取ろうとする際に、不安定な台に乗っていないか?
- 低い場所の物を取ろうとする際に、立ち上がる際にバランスを崩すリスクはないか?
- 重い物を持ち上げる際に、無理な姿勢になっていないか?
- 収納場所まで安全に移動できるか(床に物がないか、十分な通路幅があるか)?
- 環境チェック:
- 収納場所の周囲や内部は十分に明るいか?影になって見えにくい場所はないか?
- 収納の扉や引き出しはスムーズに開閉できるか?開けっぱなしにしても危険がないか?
- 収納されている物の重さやサイズは適切か?(崩れ落ちる危険はないか)
これらの視点で住まいを点検することで、潜在的なリスクを発見し、必要な対策を検討する第一歩となります。
地域のリソースの活用
高齢者の住まい改修に関しては、各自治体が高齢者向けの住宅改修支援制度や相談窓口を設けている場合があります。具体的な制度内容は地域によって異なりますが、手すりの設置や段差解消といった比較的軽微な改修に対して補助金が出るケースや、専門家による住宅改修相談を受けられるケースなどがあります。親御さんがお住まいの自治体のウェブサイトを確認したり、役所の高齢福祉担当窓口や社会福祉協議会に問い合わせたりすることで、有益な情報が得られる可能性があります。
まとめ
離れて暮らす親御さんの住まいの安全を考える上で、収納や物の出し入れに伴うリスクは見過ごされがちですが、日々の生活における転倒や落下事故の要因となり得ます。高い場所、低い場所、重い物といった具体的なリスクを把握し、使用頻度の高い物の配置を見直したり、収納方法を改善したりすることで、安全性を大きく高めることができます。
本記事でご紹介した対策やチェックポイントが、親御さんの安全・安心な住まいづくりを考える上で一助となれば幸いです。緊急性が高い場合はもちろん、そうでない場合も、定期的に親御さんと話し合い、住まいの状態を確認することが大切です。