離れて暮らす親御さんのための防犯・防災対策:住まいの安全を高めるポイント
はじめに
離れて暮らすご家族にとって、親御さんの安全は何よりも大切な関心事でしょう。特に、高齢になるにつれて、住み慣れたご自宅でも思わぬ事故やトラブルに巻き込まれるリスクが高まります。これまで「親御さんのための安全な家」では、転倒やヒートショックといった住環境に起因する物理的なリスクとその対策についてご紹介してまいりました。本稿では、これらに加えて、外部からのリスクである「防犯」、そして自然災害に対する「防災」という観点から、高齢者の住まいの安全対策について解説します。
高齢者の住まいにおける防犯・防災対策は、単に建物を強化するだけでなく、親御さんの身体状況や生活スタイル、地域特性などを考慮した、よりきめ細やかな配慮が必要です。また、緊急性の高い事態が発生した際、迅速かつ的確に対応するためには、事前の準備が不可欠となります。
高齢者の住まいにおける主な防犯・防災リスク
高齢者の住まいでは、一般住宅と比較して、以下のような特有のリスクが考えられます。
- 防犯リスク
- 侵入盗(空き巣など): 高齢者のみの世帯は狙われやすい傾向があり、施錠の不備や防犯意識の低下がリスクを高める可能性があります。
- 特殊詐欺: 固定電話にかかってくる不審な電話への対応や、自宅への訪問販売・点検商法への対応において、被害に遭うリスクが考えられます。
- 訪問販売や点検商法によるトラブル: 不要な契約や高額な工事の契約をさせられるリスクがあります。
- 防災リスク
- 地震: 揺れによる家具の転倒や建物の損傷、火災発生のリスクがあります。高齢者は避難行動に時間がかかる場合があります。
- 火災: コンロの消し忘れ、たばこの不始末、電気器具のコードの劣化など、火元となりうるリスクが潜んでいます。迅速な初期消火や避難が難しい場合があります。
- 水害: 集中豪雨や河川の氾濫による浸水リスク。垂直避難や広域避難の判断・実行が困難な場合があります。
- 急な体調変化: 災害発生時に体調を崩したり、持病が悪化したりするリスクがあります。
これらのリスクに対して、具体的にどのような対策が考えられるのかを見ていきましょう。
具体的な防犯対策と改修方法
高齢者の住まいの防犯対策は、「侵入させない」「時間をかけさせる」「目をつけさせない」という3つの原則に基づきます。
- 玄関・窓の強化
- 補助錠の設置: ワンドアツーロックは基本です。補助錠を設置することで、侵入に時間がかかり諦めさせる効果が高まります。ドアに穴を開けるタイプや、簡易な後付けタイプなどがあります。
- 防犯ガラスや防犯フィルム: 窓からの侵入を防ぐために有効です。防犯ガラスは割れにくく、防犯フィルムはガラスが割れても飛散を防ぎ、破りにくくします。
- 面格子やシャッター: 窓への物理的な侵入を困難にします。
- 防犯性の高い鍵への交換: ピッキングに強いディンプルキーなどへの交換が効果的です。
- 照明・センサーの設置
- センサー付きライト: 玄関や勝手口、庭などに設置すると、人の動きを感知して点灯し、侵入者を威嚇します。
- 防犯カメラ: 設置するだけでも抑止効果があります。ネットワーク対応のものであれば、離れた場所からスマートフォンのアプリなどで自宅の様子を確認することも可能です。
- その他の対策
- ドアホンをテレビモニター付きに交換: 相手の顔を確認してから対応でき、不審者の判別や強引な押し入りを防ぐのに役立ちます。
- 敷地周りの整理整頓: 死角を減らし、見通しを良くすることが防犯につながります。
防犯対策の改修事例と費用目安
| 対策内容 | 費用目安(工事費込み) | DIYの可否 | 専門業者依頼 | ポイント | | :--------------------------- | :--------------------- | :-------- | :----------- | :----------------------------------------- | | 玄関ドア補助錠設置(簡易型) | 5千円~2万円程度 | 可能 | 不要 | 穴あけ不要の簡易タイプであれば比較的容易 | | 玄関ドア補助錠設置(本設置) | 2万円~5万円程度 | 困難 | 必要 | ドアへの加工が必要 | | 窓用防犯フィルム貼付け | 窓1枚あたり5千円~2万円 | 可能 | 推奨(綺麗に貼るため) | 凹凸ガラスなど貼れないタイプもある | | 防犯ガラスへの交換 | 窓1枚あたり5万円~20万円 | 困難 | 必要 | ガラスの種類やサイズで大きく変動 | | センサー付きライト設置 | 1万円~3万円程度 | 可能 | 推奨(配線工事が必要な場合) | コンセント式はDIY、配線工事は専門業者へ | | テレビモニター付きドアホン | 3万円~10万円程度 | 困難 | 必要 | 無線タイプや録画機能付きなど | | 防犯カメラ設置 | 3万円~30万円程度 | 一部可能 | 推奨(配線や設定) | システム構成で費用が大きく変動 |
※上記費用はあくまで一般的な目安であり、建物の状況や選択する製品、業者によって異なります。
具体的な防災対策と改修方法
災害リスクは多岐にわたるため、それぞれのリスクに応じた対策が必要です。
- 耐震対策
- 耐震診断: まずは専門家による耐震診断で、現在の建物の耐震性を把握することが重要です。
- 耐震補強工事: 診断結果に基づき、基礎や柱、壁などを補強します。自治体によっては耐震診断や改修に補助制度を設けている場合があります。
- 家具の固定: 地震発生時の最大の危険の一つが家具の転倒です。タンスや食器棚、冷蔵庫などの大型家具は、L字金具や突っ張り棒などでしっかりと固定します。
- 火災対策
- 住宅用火災警報器: 設置が義務化されています。定期的な作動確認と、電池切れになる前の交換が必要です。
- 消火器: 家庭用の消火器を設置し、設置場所と使い方を把握しておきます。
- 調理器具の安全機能: 高齢者向けの安全機能(調理油過熱防止機能、立ち消え安全装置など)が付いたガスコンロやIHクッキングヒーターへの交換を検討します。
- 電気コードの点検: たこ足配線を避け、古いコードや劣化しているコードは交換します。
- 水害対策
- ハザードマップの確認: 自宅や周辺地域の水害リスク(浸水想定区域など)を事前に確認します。
- 土嚢や止水板: 浸水リスクがある場合、玄関や窓からの水の侵入を防ぐための対策を検討します。
- 高所への避難: 垂直避難が必要な場合に備え、家の中で比較的安全な場所を確認しておきます。
- 非常時への備え
- 非常用持ち出し袋: 3日分程度の食料、飲料水、常備薬、ラジオ、懐中電灯、モバイルバッテリーなどを準備しておきます。
- 避難場所・避難経路の確認: 自治体が指定する避難場所と、そこまでの安全な経路を事前に確認し、親御さんと共有しておきます。
- 連絡方法の確認: 災害発生時の連絡方法や集合場所などを家族間で決めておきます。
防災対策の改修事例と費用目安
| 対策内容 | 費用目安(工事費込み) | DIYの可否 | 専門業者依頼 | ポイント | | :----------------------- | :--------------------- | :-------- | :----------- | :----------------------------------------- | | 家具固定 | 1個あたり数百円~数千円 | 可能 | 不要 | 賃貸物件の場合は壁に穴を開けない工夫が必要 | | 住宅用火災警報器設置 | 1個あたり5千円~1万円 | 可能 | 推奨(適切な位置への設置) | 電池式とコンセント式がある | | 安全機能付きガスコンロ | 5万円~20万円程度 | 困難 | 必要 | グレードにより費用が変動 | | 耐震診断 | 5万円~20万円程度 | 困難 | 必要 | 建物の規模や構造による | | 耐震補強工事 | 50万円~数百万以上 | 困難 | 必要 | 診断結果に基づく工事内容で大きく変動 | | 簡易な止水板設置 | 数万円~ | 一部可能 | 推奨(適切な設置) | DIY可能な簡易タイプもある |
※上記費用はあくまで一般的な目安であり、建物の状況や選択する製品、業者によって異なります。特に耐震改修は、建物の構造や劣化状況によって大きく変動します。
安全確認のポイント(チェックリスト要素)
親御さんの住まいが防犯・防災の観点からどの程度安全かを確認するためのチェックポイントを挙げます。定期的に、または大きな改修を検討する前に、これらの視点で確認を行うことをお勧めします。
- 防犯に関する確認ポイント
- 玄関ドアの鍵は一つだけか?(二つ以上あるか)
- 窓に補助錠は付いているか?
- 割れやすい窓(掃き出し窓など)に防犯フィルムや面格子は付いているか?
- 玄関周りや庭など、人目につきにくい場所にセンサー付きライトはあるか?
- ドアホンはモニター付きか?
- 庭木が生い茂り、死角になっている場所はないか?
- 郵便受けやメーターボックスに個人情報が容易に見える状態で置かれていないか?
- 防災に関する確認ポイント
- 最後に耐震診断を受けたのはいつか?診断結果はどうだったか?
- 大型家具(タンス、冷蔵庫など)は壁や床に固定されているか?
- 高い場所に重いものを置いていないか?
- 住宅用火災警報器は設置されているか?定期的に作動確認をしているか?
- 調理器具に安全機能(消し忘れ防止など)は付いているか?
- 電気コードは劣化していないか?たこ足配線をしていないか?
- 非常用持ち出し袋は用意されているか?中身は定期的に確認・更新しているか?
- 避難場所や避難経路を把握しているか?親御さんと共有できているか?
- ハザードマップで自宅の災害リスクを確認したか?
- 災害発生時の連絡方法を家族間で決めているか?
これらのポイントを確認することで、どのような対策が優先的に必要かが見えてきます。
地域のリソースを活用する
離れて暮らす親御さんの住まいの安全対策を進めるにあたり、地域の自治体や関連団体が提供している情報や支援制度を活用できる場合があります。
多くの自治体では、高齢者の住まいに関する相談窓口を設置しています。ここでは、住宅改修に関する一般的なアドバイスや、利用可能な補助制度についての情報を提供していることがあります。また、耐震診断や耐震改修、バリアフリー改修などに対して補助金制度を設けている自治体も少なくありません。
具体的な制度の内容や利用条件は地域によって異なりますので、親御さんがお住まいの自治体のウェブサイトを確認したり、直接問い合わせたりすることをお勧めします。専門家(建築士、ケアマネージャーなど)や地域の工務店も、これらの情報に詳しい場合があります。
まとめ
離れて暮らす親御さんの住まいにおける防犯・防災対策は、安全・安心な暮らしを維持するために欠かせない要素です。すぐにできる簡単な対策から、専門的な知識や技術が必要な改修工事まで、様々な方法があります。
まずは、本稿でご紹介したチェックポイントを参考に、親御さんのご自宅のリスクを把握することから始めてみてはいかがでしょうか。その上で、親御さんのご意向も踏まえながら、どのような対策が必要か、どこに優先順位を置くかを検討してください。費用が気になる場合は、利用可能な補助制度がないか自治体に確認することも有効です。
急な事態が起きてから慌てるのではなく、日頃から安全な住まいづくりのための準備を進めておくことが、離れて暮らす親御さんとご家族双方にとっての安心につながります。もし、具体的な改修が必要な場合は、地域の専門知識を持った工務店などにご相談されることをお勧めします。彼らは高齢者の住まいの特性や地域の事情を理解しており、適切なアドバイスや施工を提供できるでしょう。