離れて暮らす親御さんのための段差解消ガイド:場所別リスク、対策、費用目安
はじめに:なぜ今、離れて暮らす親御さんの家の段差解消が重要なのか
離れて暮らす親御さんのご自宅の安全性について、日頃からご心配されている方もいらっしゃるかと思います。特に、高齢者の住環境における最大の危険の一つが「段差」です。ちょっとした段差が原因でつまずき、転倒して骨折などの大きな怪我につながるケースは少なくありません。一度大きな怪我をしてしまうと、回復に時間がかかったり、以前のような生活に戻るのが難しくなったりすることも考えられます。
ご自身の親御さんが急な怪我をされたことをきっかけに、自宅の安全対策、特に段差の解消を急いで検討されている方もいらっしゃるかもしれません。建築やリフォームに関する基本的な知識をお持ちであっても、高齢者の身体機能の変化や生活習慣に特化した安全対策の視点は、改めて整理する必要があるかと存じます。
この記事では、離れて暮らす親御さんのご自宅に潜む段差のリスク箇所を具体的に挙げ、それぞれの対策方法、リフォーム事例と費用目安、そしてご自宅の安全性を確認するためのチェックポイントをご紹介します。親御さんがこれからも安全に、そして安心してご自宅で生活を続けられるよう、すぐにでも検討できる情報を提供できれば幸いです。
家の中の主な段差リスク箇所と具体的な危険性
高齢者のご自宅には、日常生活の中で転倒のリスクを高める様々な段差が存在します。特に注意が必要な箇所とその危険性について解説します。
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玄関の上がり框(かまち) 屋外と屋内の境界であり、高さのある段差が一般的です。靴の脱ぎ履きでバランスを崩しやすく、特に荷物を持っている際や、視力が低下している場合には、段差を踏み外す危険性が高まります。
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室内の敷居 部屋と部屋を区切る敷居は、数センチ程度の低い段差ですが、頻繁に通過する場所であるため、つまずきの原因となりやすい箇所です。特に、足の筋力が低下している場合や、歩行器を使用している場合には、小さな段差でも大きなリスクとなります。
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和室と洋室の間の段差 和室の畳敷きと洋室のフローリングなど、床の高さが異なる場合に生じる段差です。部屋の用途を変える際に通過する場所ですが、意識せずに移動する際に危険が伴います。
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廊下から居室への入口 廊下と居室の間に段差がある場合、移動のたびにつまずくリスクがあります。特に照明が不十分な夜間などは危険が増します。
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浴室の入口 脱衣所と浴室の間の段差は、水濡れによる滑りやすさも加わり、非常に危険な箇所です。段差をまたぐ動作は、バランスを崩しやすく、転倒した場合に硬い床や浴槽で怪我をするリスクが高いです。
具体的な段差解消・対策方法
これらのリスク箇所に対して、様々な対策方法が考えられます。DIYで可能な比較的簡単な対策から、専門業者によるリフォームが必要な対策までご紹介します。
1. DIYレベルで可能な対策
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段差スロープの設置 数センチ程度の段差であれば、既製の段差スロープを設置することで、つまずきのリスクを軽減できます。ゴム製やプラスチック製など様々な素材があり、適切な高さのものを選ぶことが重要です。固定が不十分だと逆に滑る危険があるため、しっかりと設置する必要があります。
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滑り止めテープやマットの活用 段差の端に滑り止めテープを貼ることで、足を置く場所を明確にし、滑りを防ぐ効果があります。また、段差の手前や上りきった場所に滑りにくいマットを敷くことも補助的な対策となります。
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段差の色分け・目印 段差の端に、床の色と異なる明るい色のテープや塗料で目印をつけることで、視覚的に段差を認識しやすくし、踏み外しを防ぎます。視力の低下した方にとって有効な対策です。
2. 専門業者に依頼するリフォーム対策
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敷居の撤去・フラット化 部屋と部屋を区切る敷居を取り除き、床材を張り替えることで、段差をなくし完全にフラットにすることができます。つまずきの原因を根本から解消できる効果的な方法です。
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床全体のバリアフリー化(かさ上げ・張り替え) 家全体の床に段差が多い場合や、将来的な車椅子利用なども考慮する場合、床全体をかさ上げしたり、既存の床材を撤去して新しい床材に張り替えたりすることで、全ての段差を解消し、スムーズな移動を可能にする大規模な改修を行うことがあります。
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玄関の上がり框の改修 上がり框の段差を解消するために、玄関ポーチ側にスロープを設置したり、屋内側の床をかさ上げして段差を小さくしたりする方法があります。上がり框の高さに応じて最適な方法を選択します。手すりの設置と併せて行うとより安全です。
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浴室の段差解消 浴室の床を脱衣所の床の高さに合わせてかさ上げしたり、ユニットバス自体をバリアフリー仕様のものに交換したりする方法があります。水に強く滑りにくい床材を選ぶことが重要です。
改修事例と費用目安
具体的なリフォーム事例と、それにかかるおおまかな費用目安をご紹介します。費用の目安は、建物の構造、使用する材料、工事の規模、依頼する業者によって大きく異なりますので、あくまで参考としてください。
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事例1:室内の敷居撤去と床のフラット化
- 内容:和室と洋室の間の敷居を撤去し、新しい床材(フローリングなど)を張り増し、段差を解消する。
- 費用目安:1箇所あたり 3万円~10万円程度。範囲や仕上げ材によって変動します。
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事例2:玄関上がり框の段差緩和(屋内側かさ上げ)
- 内容:玄関ホールの床を一部かさ上げし、上がり框の段差を小さくする。または、段差解消のためのステップを設置する。
- 費用目安:10万円~30万円程度。手すり設置も含む場合や、範囲によって変動します。
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事例3:浴室の段差解消とユニットバス交換
- 内容:既存の浴室を解体し、バリアフリー仕様のユニットバスに交換する。入口の段差が解消され、床材も滑りにくくなる。
- 費用目安:60万円~150万円程度。ユニットバスのグレードや工事内容によって大きく変動します。
これらのリフォームは、専門的な知識や技術が必要となるため、信頼できる工務店やリフォーム会社に依頼することをお勧めします。複数の業者から見積もりを取り、内容を比較検討することが重要です。DIYで可能な範囲は限られますが、段差スロープの設置や滑り止め対策などは、比較的低コストで実施可能です。
親御さんの家の安全確認のポイント
離れて暮らす親御さんの家を訪問した際に、どのような視点で安全性を確認すれば良いか、チェックポイントをリスト形式でご紹介します。
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玄関・アプローチ
- 上がり框の段差の高さは適切か。
- 段差部分の色分けや目印はあるか。
- 手すりは設置されているか、適切な位置にあるか。
- たたきは滑りにくくなっているか。
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室内(廊下、居室間)
- 部屋と部屋の間の敷居や段差はどれくらいあるか。
- 段差部分が分かりにくい場所(暗い場所、床と同系色の場所)はないか。
- コード類が床に這っていてつまずきそうになっていないか。
- 家具の配置が動線を妨げ、危険な箇所はないか。
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浴室・脱衣所
- 脱衣所と浴室の間の段差はどれくらいあるか。
- 浴室の床は滑りにくい素材か。
- 浴槽をまたぐ動作に危険はないか。
- 手すりは設置されているか、適切に使える位置にあるか。
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その他共通
- 家全体の照明は十分か、特に段差のある場所や廊下は明るいか。
- 親御さんが普段どのような場所でつまずいたり、バランスを崩したりしやすいか、直接聞いてみる。
これらのポイントを確認し、具体的なリスク箇所を把握することが、適切な対策を講じる第一歩となります。
知っておきたい情報源
高齢者のための住宅改修には、自治体による支援制度や相談窓口が用意されている場合があります。介護保険制度を利用した住宅改修費の支給制度はその代表的な例です。要支援または要介護認定を受けている場合、限度額内で住宅改修にかかる費用の9割(所得に応じて8割または7割)の支給を受けることができます。段差解消や手すりの設置、滑り止め床材への変更などが対象となります。
お住まいの地域によっては、独自の助成制度や、専門家(ケアマネジャー、建築士、理学療法士など)による住宅改修に関する相談窓口を設けている場合もあります。具体的な制度内容や手続きについては、親御さんの住民票のある市区町村の窓口や地域包括支援センターにお問い合わせいただくことをお勧めします。これらの情報源を活用することで、費用の負担を軽減したり、より専門的なアドバイスを得たりすることが可能になります。
まとめ
離れて暮らす親御さんのご自宅に潜む段差は、日々の生活の中で大きな転倒リスクとなります。しかし、適切な対策を講じることで、そのリスクを大幅に減らし、親御さんが安全に、そして安心して暮らし続けられる環境を整えることができます。
この記事でご紹介したように、段差のリスク箇所は様々ですが、段差スロープの設置のような比較的簡単な対策から、敷居の撤去や床のフラット化といった本格的なリフォームまで、いくつかの選択肢があります。それぞれの状況や予算に合わせて、最適な方法を選択することが重要です。
まずは、ご紹介した安全確認のポイントを参考に、親御さんのご自宅の段差リスクを把握することから始めてみてください。必要に応じて専門家や自治体の窓口に相談し、早めに対策を進めることが、親御さんの安全を守る上で非常に大切です。親御さんの安心な毎日をサポートするための一助となれば幸いです。