離れて暮らす親御さんの住まい 緊急安全対策:リスクの高い場所と優先すべき改修
はじめに
離れて暮らす親御さんの住まいについて、突然の怪我や体調の変化をきっかけに、住環境の安全対策の必要性を強く感じられる方が多くいらっしゃいます。特に、時間的・精神的な余裕がない中で、どこから手をつけるべきか、どのような対策が効果的なのか、迷われることもあるかと存じます。
建築やリフォームに関する基礎知識をお持ちであっても、高齢者の身体機能の変化に特有のリスクや、それに伴う安全対策の専門的な観点は、改めて確認しておきたい点かもしれません。この記事では、緊急で対応が必要と考えられる高齢者の住まいにおけるリスクの高い場所とその理由、そして優先的に検討すべき具体的な改修策について解説します。
緊急度が高いと考えられるリスク箇所とその理由
高齢者の住まいにおいて、特に転倒やそれに伴う骨折のリスクが高い場所は、緊急の対応が必要となる可能性が高いと言えます。加齢に伴う身体機能の変化、例えば筋力の低下、バランス感覚の衰え、視力の低下などが、これらの場所での事故リスクを高めます。
緊急度が高いと考えられる主なリスク箇所は以下の通りです。
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トイレ・浴室
- リスク: 立ち上がり・座り込み動作時のバランス喪失、濡れた床での滑り、急激な温度変化によるヒートショック(浴室)。これらの場所は、一日に何度も使用し、かつ狭い空間で複雑な動作を伴うため、事故が起こりやすい傾向にあります。
- 理由: 特に夜間や体調が優れない時には、注意力が散漫になりやすく、転倒につながりやすい環境です。
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階段・段差
- リスク: つまずき、踏み外し、転落。屋内だけでなく、玄関までのアプローチにある階段や段差も同様に危険です。
- 理由: 複数の段差を昇降する動作は、バランス能力と筋力を要します。加齢によりこれらの能力が低下すると、小さな段差でもつまずきやすくなり、特に視界が悪い場所ではリスクが増大します。
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玄関・アプローチ
- リスク: 外出・帰宅時のつまずき、段差の踏み外し、滑りやすい床材やタイル。
- 理由: 屋外との出入り口であり、靴の脱ぎ履きなど不安定な姿勢になりやすい場所です。雨天時などはさらに滑りやすくなり危険が増します。
これらの場所での事故は、単なる怪我に留まらず、その後の生活の質に大きく影響する可能性があります。そのため、親御さんの身体状況や生活スタイルを踏まえ、これらの場所の安全対策を優先的に検討することが推奨されます。
リスク箇所ごとの具体的な緊急対策と費用目安
緊急で実施できる安全対策には、比較的簡単なものから専門業者による改修が必要なものまであります。親御さんの状況とご自宅の状態に合わせて、適切な対策を検討しましょう。
1. トイレ・浴室の対策
- 手すりの設置: 立ち上がり・座り込みの補助に便器脇や壁に縦・横手すりを設置します。浴室には出入り口や洗い場、浴槽脇に設置します。
- 費用目安: 1箇所あたり 数千円~数万円(手すり本体+工事費)。DIY可能な場合もありますが、壁の補強や適切な位置への設置には専門知識が必要です。
- 滑り止め対策: トイレマットや浴室用滑り止めマットを敷く、床材を滑りにくいものに張り替える。
- 費用目安: マット類は数千円程度。床材張り替えは数万円〜(広さによる)。
- 緊急呼び出し装置の設置: 万が一の際に家族や外部に連絡できる装置を設置します。
- 費用目安: 数千円〜数万円(機能による)。
2. 階段・段差の対策
- 手すりの設置: 階段の両側または片側に手すりを設置します。
- 費用目安: 階段の長さによるが、数万円~十数万円。壁の構造によっては補強が必要になります。
- 段差解消: 屋内の小さな段差にはスロープや置き型の踏み台を設置。玄関の上がりかまちには踏み台を設置します。屋外の段差にはスロープ設置や段差を緩やかにする工事を行います。
- 費用目安: 置き型踏み台:数千円〜数万円。簡易スロープ:数千円〜数万円。本格的な段差解消工事:数万円〜数十万円。
- 滑り止め対策: 階段にはノンスリップ材(滑り止めテープやゴムシート)を貼る。
- 費用目安: 数千円程度。
3. 玄関・アプローチの対策
- 手すりの設置: 玄関ドア横や上がりかまち部分、アプローチの階段・スロープに手すりを設置します。
- 費用目安: 1箇所あたり 数万円〜(長さによる)。
- 段差解消: 上がりかまち踏み台の設置、アプローチの段差を緩やかにする工事。
- 費用目安: 上がりかまち踏み台:数千円〜数万円。工事:数万円〜。
- 滑り止め対策: 玄関ポーチやアプローチの床材を滑りにくいものにする、滑り止め塗装を行う。
- 費用目安: 滑り止めシート:数千円。塗装・張り替え:数万円〜。
- 照明の増設・改善: 玄関やアプローチが暗い場合は、センサーライトなどを設置し、明るさを確保します。
- 費用目安: 数千円〜数万円(器具による)。
これらの対策の中には、DIYで可能なものもありますが、高齢者の安全に関わる部分は、専門的な知識や技術が必要となる場合が多いです。特に手すりの設置は、壁の構造を見極め、体重をかけても外れないようにしっかりと固定する必要があり、適切な高さや位置に設置しないと効果が半減します。床材の張り替えや段差解消工事も、専門業者に依頼する方が安心確実です。
安全確認のポイント
緊急で対応すべき箇所を見極めるためには、親御さんの日々の様子や生活動線を観察することが重要です。以下の視点で自宅をチェックし、リスクの高い場所を特定する手助けとしてください。
- 親御さんの身体状況: 歩行状態、バランス、視力、筋力などを考慮し、どのような動作が苦手そうか、どこで不安定になりやすいかを把握します。
- 事故の経験: 過去にヒヤリとしたことや、実際に転倒などの事故があった場所は、最優先で対策が必要です。
- 使用頻度: 一日に何度も使用する場所(トイレ、リビングと寝室間の移動経路など)は、リスクに晒される時間が長いため優先度が高くなります。
- 環境要因: 暗い場所はないか、小さな段差や障害物はないか、床材は滑りやすくないかなど、物理的な環境を詳細に確認します。
これらの確認を通じて、具体的な対策箇所と内容を絞り込むことができます。
費用補助制度や相談窓口について
高齢者の住まい改修には、国の介護保険制度を利用した住宅改修費の支給や、各自治体独自の助成制度がある場合があります。これらの制度を活用することで、改修費用の負担を軽減できる可能性があります。
具体的な申請方法や対象となる工事、支給額の上限などは、お住まいの市区町村の窓口(地域包括支援センターや役所の高齢福祉課など)にご確認ください。また、ケアマネジャーや福祉住環境コーディネーターなどの専門家も、親御さんの心身の状態や生活状況を踏まえた上で、必要な改修内容や利用できる制度についてアドバイスを提供してくれます。
緊急性の高い改修が必要な場合でも、まずは専門家に相談し、適切な診断と計画を立てることが、安全かつ効率的な改修につながります。
まとめ
離れて暮らす親御さんの住まいの安全を確保することは、親御さん自身の安心・安全な生活だけでなく、見守るご家族の安心にも繋がります。特に緊急性の高い状況では、リスクの高い場所を特定し、優先順位を付けて迅速に対応することが重要です。
トイレ、浴室、階段、段差、玄関・アプローチといった場所は、高齢者の事故が起こりやすい典型的な箇所です。これらの場所に対し、手すり設置や段差解消、滑り止め対策などの具体的な改修策を検討してください。一部はDIYでも可能ですが、安全性を最優先するためには専門業者への依頼が推奨されます。
親御さんの状況を丁寧に観察し、必要に応じて地域の相談窓口や専門家の支援を活用しながら、安全な住まいづくりを進めていきましょう。