離れて暮らす親御さんのための安全な家具選びと配置:転倒・衝突を防ぐポイントと費用目安
はじめに
離れて暮らす親御さんの安全な住まいづくりにおいて、家具は日常的な生活空間の一部でありながら、潜在的な危険源となることがあります。特に、高齢に伴う身体機能の変化により、かつては何の問題もなかった家具やその配置が、転倒や衝突、立ち座りの困難さといったリスクに繋がりかねません。
親御さんの急な怪我などをきっかけに、住環境の安全性について緊急で見直しが必要になった際、建物の構造やリフォームに関する知識をお持ちであっても、高齢者の身体特性に合わせた家具選びや配置に関する専門知識が不足している場合があるかと存じます。
この記事では、離れて暮らす親御さんの住まいにおける家具関連のリスクに焦点を当て、安全な家具選び、適切な配置、そして具体的な対策について、事例や費用目安を交えながら解説いたします。すぐに実践できるポイントや、専門業者に依頼すべき範囲なども含め、親御さんの安心・安全な暮らしをサポートするための情報を提供できれば幸いです。
高齢者の住まいにおける家具由来のリスク
高齢期には、筋力の低下、バランス感覚の変化、視力の衰えなどが生じやすくなります。これにより、それまで無意識に行えていた動作や空間把握が難しくなり、家具が以下のようなリスクを引き起こす可能性があります。
- 転倒リスク:
- 動線を塞ぐように配置された家具の角や脚につまずく。
- 高さが不適切なソファや椅子から立ち上がる際にバランスを崩す。
- 不安定な家具や、物が積み重ねられた収納家具の傍で作業する際に転倒する。
- 滑りやすい床材の上に置かれた小型の家具(オットマン、サイドテーブルなど)が動いてつまずく。
- 衝突リスク:
- 移動経路上の家具の角や出っ張りに体をぶつける。
- 視界に入りにくい低い位置にある家具に気づかずに衝突する。
- 立ち座りの困難さ:
- 座面が低すぎる、あるいは柔らかすぎるソファや椅子からの立ち上がりが困難になる。
- 適切な高さの肘掛けがないため、体を支えられない。
- 物の落下リスク:
- 不安定な棚や、地震などで倒れやすい家具から物が落下し、怪我をする。
- 高い位置にある収納から物を取り出そうとしてバランスを崩す。
これらのリスクは、親御さんの自立した生活を妨げるだけでなく、深刻な怪我に繋がりかねません。
安全な家具選びと配置の具体的なポイント
親御さんの住まいの安全性を高めるためには、リスクを理解した上で、家具の選び方と配置に工夫を凝らすことが重要です。
動線の確保と配置の工夫
家の中での安全な移動を確保するためには、十分な幅の動線を確保し、障害物となるような家具の配置を避けることが基本です。
- 通路幅の確保: 部屋から部屋への移動や、部屋の中での主要な動線(ベッドからトイレ、椅子からキッチンなど)は、少なくとも75cm〜85cm程度の有効幅を確保することが推奨されます。これは、手すりを持っての移動や、将来的に歩行器、車椅子を使用する可能性も考慮した目安です。
- 家具の配置場所:
- 出入り口付近には、扉の開閉を妨げず、かつ出入りする人がつまずかないよう、何も置かないようにします。
- 廊下や階段の踊り場など、移動の要所には原則として家具を置かないのが望ましいです。
- 部屋の中央部はできるだけ開けておき、円を描くように移動できる配置が理想的です。
- 窓際やベランダへの出入り口付近に、高さのある家具や転倒しやすい物を置かないようにします。
- 見通しの確保: 部屋全体の様子や、次に移動する場所が見渡せるような配置を心がけます。死角を減らすことで、予期せぬ障害物や状況変化への対応がしやすくなります。
高齢者に適した家具選び
新しく家具を購入する場合や、既存の家具を見直す際のポイントです。
- 高さ:
- 椅子・ソファ: 座面が高すぎず低すぎず、膝が約90度に曲がる程度の高さが立ち座りしやすい目安です。硬めの座面の方が沈み込まず、立ち上がりを助けます。
- ベッド: ベッドからの起き上がりや立ち上がりがしやすいよう、床からマットレス上面までの高さが、座った際に足裏全体が床につく程度(一般的に40cm〜50cm程度)が適切とされます。
- テーブル: 椅子やソファの高さに合ったテーブルを選ぶことで、無理のない姿勢で作業や食事ができます。
- 安定性: 簡単には揺れたり倒れたりしない、安定感のある構造の家具を選びます。重心が低く、脚がしっかりしたものを選びましょう。
- 素材・形状:
- 家具の角は丸みがあるものや、保護材(コーナークッションなど)を取り付けやすい形状が望ましいです。
- 引き出しや扉は、軽い力で開閉できるもの、指を挟みにくい構造のものを選びます。
- 立ち座りを助ける機能: 肘掛け付きの椅子やソファは、立ち上がる際に手で体を支えられるため安全です。リクライニング機能付きの椅子や、立ち上がり補助機能付きの椅子なども選択肢となります。
既存家具への安全対策
現在使用している家具に対しても、いくつかの対策を講じることができます。
- 角の保護: テーブルや棚など、出っ張った角には市販のコーナークッションやガードを取り付け、衝突時の衝撃を和らげます。
- 滑り止め: ラグやマットを敷く場合は、端がめくれ上がらないように固定し、裏面に滑り止め加工が施されているものを選びます。小型家具の脚には滑り止めシートを敷くのも有効です。
- 転倒防止: 背の高い家具(本棚、食器棚など)は、L字金具や転倒防止ベルトなどを用いて壁に固定します。地震対策としても有効です。
具体的な改修・対策事例と費用目安
家具に関連する安全対策には、比較的簡単にできるものから専門業者に依頼するリフォームに近いものまで様々です。
- 事例1:動線確保のための家具移動・再配置
- 内容: 部屋の模様替えを行い、通路幅を広げる、よく通る場所から家具を移動するなど。
- 費用目安: DIYで可能であれば、費用はほぼかかりません。大型家具の移動を専門業者に依頼する場合は、数万円程度かかる場合があります。
- 事例2:立ち座りしやすい椅子の導入
- 内容: 座面高や硬さが適切で、肘掛け付きの新しい椅子やソファに買い替える。
- 費用目安: 新しい家具の価格によりますが、数千円から数十万円程度と幅広いです。立ち上がり補助機能付きなど、高齢者向けに特化した高機能なものは高額になる傾向があります。
- 事例3:ベッドの高さ調整または介護ベッド導入
- 内容: ベッドの高さを適切なものに変更する(高さ調節機能付きベッドへの買い替えなど)。必要に応じて、介護ベッド(電動リクライニング、高さ調節機能付き)の導入を検討する。
- 費用目安: 高さ調節機能付きベッドは数万円から、介護ベッドは購入すると数十万円以上かかりますが、レンタル制度を活用できる場合があります。
- 事例4:収納家具の見直しと転倒防止対策
- 内容: 背の高い不安定な棚から、高さが低く安定性の高いチェストなどに買い替えたり、既存の家具を壁に固定したりする。
- 費用目安: 家具の購入費用(数千円〜数万円)、転倒防止金具の購入・設置費用(DIYなら数百円〜数千円、業者依頼なら数千円〜数万円)。
- 事例5:手すりの設置と連携した家具配置
- 内容: 通路や立ち座りする場所(ベッドサイド、トイレ前など)に手すりを設置し、その手すりを使いやすいように家具を配置する。
- 費用目安: 手すりの設置はリフォーム工事となるため、場所や本数によりますが、数万円から数十万円程度が目安です。家具の再配置費用は別途かかる場合があります。
これらの事例のように、家具の安全対策は単体で行うだけでなく、手すりの設置や床材の変更といった他の改修と合わせて検討することで、より効果的な住環境整備が可能となります。
安全確認のポイント
離れて暮らす親御さんの住まいの安全性を確認する際には、以下の点を意識しながらチェックを行うと良いでしょう。
- 場所別チェック:
- 玄関・廊下: 通路幅は十分か。靴や傘立てなど、つまずきやすい物は整理されているか。低い位置に置かれた家具はないか。
- リビング: 主要な動線(ソファからテーブル、出入り口など)は確保されているか。テーブルや収納家具の角は危険ではないか。ソファや椅子の立ち座りはスムーズか。
- 寝室: ベッドの高さは適切か。ベッドサイドから照明スイッチ、トイレまでの動線は安全か。背の高い家具は固定されているか。
- ダイニング: 椅子やテーブルの高さは適切か。椅子の立ち座りはスムーズか。
- キッチン: 収納棚の高さは適切か。調理スペース周辺に危険な家具はないか。
- 動作別チェック:
- 家の中を歩く際に、家具につまずいたり、体をぶつけたりしないか。
- 椅子やソファ、ベッドからの立ち座りに苦労していないか。
- 収納から物を取り出す際に、無理な体勢になっていないか。
- 夜間、暗い場所で家具にぶつかるリスクはないか(照明も合わせて確認)。
- 家具自体のチェック:
- 家具は安定しているか、ぐらつきはないか。
- 角が尖っている家具はないか。
- 引き出しや扉の開閉はスムーズで安全か。
- 家具の上に不安定な物が置かれていないか。
これらの観点から、親御さんの日々の生活の様子を思い浮かべながら確認を進めると、見落としがちな危険箇所を発見しやすくなります。可能であれば、実際に親御さんと一緒に家の中を歩きながら確認するのも良いでしょう。
地域のリソース活用について
高齢者の住環境整備に関しては、お住まいの地域の自治体が様々な支援制度や相談窓口を設けている場合があります。
例えば、高齢者向け住宅改修費の助成制度や、住宅に関する相談窓口などが利用できる可能性があります。また、地域包括支援センターや担当のケアマネージャーに相談することで、親御さんの状況に合わせたアドバイスや、利用可能なサービスに関する情報提供を受けることもできます。
専門的な視点からのアドバイスや、具体的な改修の検討が必要な場合は、福祉住環境コーディネーターの資格を持つ専門家や、高齢者向けリフォームの実績が豊富な工務店などに相談することも有効です。
まとめ
離れて暮らす親御さんの安全な住まいづくりにおいて、家具の選び方や配置は、転倒や衝突といった日常的な事故を防ぐための重要な要素です。動線の確保、高齢者の身体機能に合わせた家具の選択、そして既存家具への簡単な安全対策は、すぐにでも取り組める有効な手段となります。
この記事でご紹介した具体的なポイントや事例、費用目安、そして安全確認の観点を参考に、親御さんの住まいを見直してみてはいかがでしょうか。必要に応じて地域の支援制度や専門家の力も借りながら、親御さんがこれからも安全で快適に暮らし続けられる環境を整えていきましょう。