離れて暮らす親御さんの住まい、ヒヤリハット事例に学ぶ安全対策:事故を防ぐ具体的な改修と費用
はじめに
離れて暮らす親御さんの急な怪我の知らせは、誰にとっても心労が大きいものです。特に、住み慣れたご自宅での予期せぬ事故は、安全対策の重要性を改めて痛感させます。高齢者の住まいにおける事故は、大きな怪我につながるだけでなく、その後の生活の質にも影響を及ぼします。
しかし、日々の暮らしの中で潜む危険箇所は、見慣れた場所だからこそ見落としがちです。実際に起きた「ヒヤリハット」事例から学ぶことは、潜在的なリスクを認識し、効果的な対策を講じるための貴重な手掛かりとなります。
この記事では、実際に高齢者のご自宅で発生しやすいヒヤリハット事例をいくつかご紹介し、それぞれの事例から考えられる具体的な危険箇所、そして事故を防ぐための対策や改修方法、その費用目安について解説します。親御さんの安全な暮らしを守るため、ぜひご自宅の環境を見直す際の参考にしていただければ幸いです。
ヒヤリハット事例に見る主なリスク箇所と具体的な対策
ここでは、高齢者の住まいで起こりやすいヒヤリハット事例を基に、具体的なリスクと対策、改修費用についてご説明します。
事例1:浴室での滑りによる転倒寸前
- 事例概要: 浴室で体を洗っている最中、床が滑りやすくバランスを崩し、壁に手をついて転倒を免れた。
- 考えられるリスク: 浴室の床材が滑りやすい材質であること、石鹸の泡や水分によってさらに滑りやすくなっていること、体を支える場所(手すりなど)がないこと。
- 具体的な対策と改修:
- 床材の変更: 滑りにくい加工が施された床材(例:防滑性シート、タイル)への張り替え。
- 手すりの設置: 浴槽への出入りや立ち座りの補助、洗い場での移動・姿勢保持のための手すり設置。
- 浴室用マットの設置: 簡易的な対策として、滑り止め効果のあるマットを置く。ただし、マット自体につまずくリスクも考慮が必要です。
- 費用目安:
- 浴室用マットの設置:数千円〜1万円程度(DIY可能)
- 手すりの設置:1箇所あたり1万円〜5万円程度(DIY可能範囲もあるが、下地補強が必要な場合は専門業者に依頼)
- 床材の張り替え(洗い場のみ):5万円〜15万円程度(専門業者に依頼)
- ユニットバス全体の改修:50万円〜200万円以上(専門業者に依頼)
事例2:夜間、廊下でつまずき壁にぶつかった
- 事例概要: 夜中にトイレに行くため廊下を歩いていた際、床に置いてあった物につまずきそうになり、慌てて近くの壁に手をついた。
- 考えられるリスク: 廊下の照度が不足している、床に障害物(コード、物など)がある、スリッパや履物が脱げやすい、視覚の変化や平衡感覚の衰え。
- 具体的な対策と改修:
- 照明の増設・改善: 人感センサー付きのフットライトや、明るさを確保できる照明器具への交換・増設。夜間でも足元が見えやすい明るさに調整。
- 障害物の除去・整理: 廊下に物を置かないよう徹底する。固定できないコード類はモールなどで整理する。
- 床の段差解消: 敷居などの小さな段差をなくす、またはスロープを設置する。
- 費用目安:
- 人感センサー付きフットライト設置:数千円〜2万円程度(コンセント式はDIY可能、電気工事が必要な場合は専門業者に依頼)
- 照明器具の交換・増設:1箇所あたり1万円〜5万円程度(電気工事が必要な場合は専門業者に依頼)
- 簡易スロープ設置:数千円〜数万円程度(DIY可能)
- 本格的な段差解消工事:数万円〜数十万円(専門業者に依頼)
事例3:キッチンで火傷しそうになった、足元がおぼつかなくなった
- 事例概要: 熱い鍋を運んでいる時に足元のマットに引っかかりそうになり、鍋を落としそうになった。あるいは、ガスコンロの火が袖口に燃え移りそうになった。
- 考えられるリスク: キッチンマットや床材が滑りやすい、つまずきやすい、コンロ周りに燃えやすい物がある、ガスコンロの立ち消え安全装置がない、足元が不安定になる。
- 具体的な対策と改修:
- 床材の見直し: 水や油汚れに強く、滑りにくい床材(クッションフロアなど)への変更。キッチンマットは固定できるタイプや、床との段差が少ないものを選ぶか、使用しない。
- コンロ周りの整理: 燃えやすい物をコンロから離して配置する。袖口が広がった服での調理を避ける。
- 安全機能付きコンロへの交換: 立ち消え安全装置、調理油過熱防止装置、消し忘れ消火機能などが付いたガスコンロやIHクッキングヒーターへの交換。
- 手すり・カウンター設置: キッチン内に立ち座りや移動の際に体を支えられる手すりや、作業を補助するカウンターを設置。
- 費用目安:
- キッチンマットの見直し・撤去:0円〜数千円
- 床材の張り替え(キッチン部分):5万円〜20万円程度(専門業者に依頼)
- 安全機能付きガスコンロへの交換:5万円〜20万円程度(専門業者に依頼)
- IHクッキングヒーターへの交換:10万円〜30万円程度(電気工事も含む、専門業者に依頼)
- 手すり・カウンター設置:数万円〜十数万円(専門業者に依頼)
事例4:玄関段差でバランスを崩した
- 事例概要: 外出しようと玄関の上がり框を降りる際に、バランスを崩し手をついた。
- 考えられるリスク: 上がり框の段差が大きい、手すりがない、夜間や悪天候時に足元が見えにくい、靴の着脱時に不安定な姿勢になる。
- 具体的な対策と改修:
- 手すりの設置: 上がり框の両側や片側に縦型・横型の手すりを設置。
- 段差の緩和: 踏み台(式台)の設置や、上がり框の段差を複数段に分ける工事。
- 照明の増設: 玄関内やポーチ部分に、足元を明るく照らす照明を設置。
- 費用目安:
- 手すりの設置:1箇所あたり1万円〜5万円程度(専門業者に依頼推奨)
- 置き型踏み台の設置:数千円〜数万円(DIY可能)
- 上がり框の改修(段差緩和、式台設置など):10万円〜30万円程度(専門業者に依頼)
- 照明器具の交換・増設:1万円〜5万円程度(電気工事が必要な場合は専門業者に依頼)
安全確認のポイント:ヒヤリハットを防ぐ視点
これらのヒヤリハット事例からわかるように、事故の背景には複数の要因が絡み合っていることが少なくありません。具体的な対策を講じる前に、親御さんの住まい全体を「事故が起こりやすい場所」という視点で見直すことが重要です。
以下に、安全確認のための具体的なポイントをリスト形式で示します。これらの項目を参考に、ぜひ親御さんと一緒に、あるいはご自身でご自宅をチェックしてみてください。
-
場所別チェックポイント:
- 玄関・廊下:
- 段差(上がり框、敷居)はないか、大きいか
- 照明は十分明るいか、夜間でも安全に移動できるか
- 床に滑りやすい箇所はないか(玄関土間など)
- 物を置く習慣があり、通路が狭くなっていないか
- 手すりがあると安全な場所はないか
- 階段:
- 手すりは両側にあるか、しっかり固定されているか
- 踏み面が滑りにくくなっているか
- 各段の高さ・奥行きは一定か
- 照明は各階の踊り場、特に足元を照らしているか
- 階段周りに物を置いていないか
- 浴室・脱衣所:
- 床材は滑りにくくなっているか
- 浴槽の出入りや洗い場での手すりは必要か
- 洗い場から浴槽への段差は大きいか
- 浴室と脱衣所の温度差は大きくないか(ヒートショックリスク)
- ドアの開閉はスムーズか、緊急時に外から開けられるか
- トイレ:
- 立ち座りのための手すりがあると便利か
- ドアの開閉はスムーズか
- 夜間でも足元が見える照明があるか
- 床は滑りにくくなっているか
- キッチン:
- 床に水や油で滑りやすい箇所はないか
- コンロ周りに燃えやすい物はないか
- 物の出し入れに無理な姿勢(背伸び、かがみ込み)が必要な場所はないか
- 足元を支える手すりやカウンターは必要か
- リビング・寝室:
- 家具の配置で通路が狭くなっていないか
- 敷物(ラグ、マット)につまずくリスクはないか
- コード類が露出して、つまずく危険はないか
- ベッドからの立ち座りは安全か、手すりは必要か
- 夜間の移動(トイレなど)に必要な明るさを確保できるか
- 玄関・廊下:
-
動作別チェックポイント:
- 立ち座り、歩行、物を持つ、物の出し入れなど、日常の様々な動作の中で「ヒヤリ」とした経験はないか。
- 加齢に伴う身体機能の変化(視力、平衡感覚、筋力など)を考慮し、どのような動作が困難になりそうか。
-
時間帯別チェックポイント:
- 日中と夜間、照明の当たり方で危険箇所は変化しないか。
- 早朝や深夜の行動(トイレなど)にリスクはないか。
これらのチェックを通じて、潜在的な危険箇所や、親御さんがどのような場面でヒヤリとする可能性があるかが見えてきます。
改修の進め方と相談先
チェックリストで危険箇所が見つかった場合、次に具体的な対策を検討します。対策には、物の配置を変える、滑り止めシートを貼るなどの「すぐにできる対策」と、手すりの設置や段差解消工事などの「専門業者による改修」があります。
-
DIYで可能な範囲:
- 簡易的な滑り止めシートの設置
- 人感センサー付きコンセント式フットライトの設置
- コード類の整理
- 家具の配置変更
- 置き型踏み台の設置
- 既存手すりの緩みチェック・補強(可能な範囲で)
-
専門業者に依頼すべき範囲:
- 手すりの新規設置(壁の内部補強が必要な場合が多い)
- 段差解消工事(スロープ設置、床の張り替えなど)
- 滑りにくい床材への全面的な張り替え
- 浴室やトイレ、キッチンなどの水回り改修
- 照明器具の交換・増設(電気工事が必要な場合)
- 建物の構造に関わる改修
親御さんの身体状況やご自宅の状況に合わせて、適切な方法を選択することが重要です。専門的な知識や技術が必要な改修は、信頼できる工務店やリフォーム会社に相談することをお勧めします。高齢者向け住宅改修の実績が豊富な業者を選ぶと安心です。
また、高齢者のための住宅改修には、各自治体が独自の助成金制度や補助金制度を設けている場合があります。介護保険制度における住宅改修費の支給対象となる工事もあります。これらの制度を利用できるかどうか、お住まいの地域の自治体窓口(福祉課、介護保険課など)や地域包括支援センターに相談してみるのも良いでしょう。専門の相談員が、状況に応じたアドバイスや適切な相談先を紹介してくれることがあります。
まとめ
離れて暮らす親御さんの安全な住まいづくりは、日々の小さなヒヤリハットから学ぶことから始まります。実際の事例を通じて危険箇所を特定し、ご紹介したチェックポイントを参考に具体的なリスクを見つけていくことが、事故を未然に防ぐ第一歩です。
すぐにできる簡単な対策から、専門業者による本格的な改修まで、様々な方法があります。親御さんの状況やご自宅の状態に合わせて、無理のない範囲で計画的に進めることが大切です。いざという時のために、事前に地域の相談窓口や支援制度について情報を集めておくことも有効です。
この記事が、親御さんの安全で安心な暮らしを守るための一助となれば幸いです。